2020年11月29日(日)、”ゲームの理論やノウハウを活用した社会問題解決”をテーマにしたコンペティション、慶應義塾大学 社会&ビジネスゲームラボ主催・株式会社オルトプラス協賛『第1回 全日本ゲーミフィケーションコンペティション 〜presented by慶應義塾大学 社会&ビジネスゲームラボ〜』が、開催されました。
今回は、アイデア受賞者の太田 泰嗣さんに、作品に込めた想いや、製作過程、今後の展望についてインタビューさせていただきました。
【作者紹介】
太田 泰嗣さん
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 前期博士課程2年、中小企業診断士、PMP、ITコーディネータ。現在、ゲームの力を活用して、社会やビジネスの様々な問題・課題を解決する方法について研究している。
【作品紹介】
アイデア賞受賞作品「職場のいじめ・嫌がらせに傍観者が介入するためのゲーミング・シミュレーション
[引用元:「第1回 全日本ゲーミフィケーションコンペティション」2次審査発表資料より]
誰しもの身近に潜む社会問題「職場のいじめ・嫌がらせ」
ーアイデア賞の受賞、おめでとうございます! 今回、応募された作品のコンセプト「職場のいじめ・嫌がらせに傍観者が介入する」をテーマにしたきっかけ、このテーマに関心を抱くきっかけになったエピソードはありますか?
まず、ゲームを使って社会問題やビジネスの課題を解決するということに関心を持ち、そのことについて研究したいと考え、SDM(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科)に入学しました。
そこで、どういう研究をしようかと考えた時に、自分にとって最も身近な問題にした方がいいと思い、「職場のいじめ・嫌がらせ(パワーハラスメント)」をテーマにしました。実際に、自分が社会に出てパワーハラスメントが生じている現場で働いた経験もあったので、この問題に対して、ゲームを活用して解決できないかと考えたことがきっかけでした。
ー身近な課題だったんですね。
パワーハラスメントは、する側(行為者)とされる側(被害者)だけの問題だけではなくて、周りで見たり聞いたりしている人が見て見ぬふりをしていたり、火に油を注いでいたりします。
また、もし、自分が行為者としてパワーハラスメントをしてしまっていたら、周りに止めてもらいたいし、逆に、被害者としてパワーハラスメントを受けていたら助けてもらいたいという気持ちもあって、周りで見たり聞いたりしている第三者が介入するきっかけになればと思ってこのテーマに辿り着きました。
ー今回ご応募された作品には身近な問題を解決したいという思いがあったんでしょうか。
パワーハラスメントは、行為者の方や被害者の方だけの問題ではないし、周りの人たちが注意したり、止めたりしないといけないのに、見て見ぬふりをしていることが多いし、自分もそうであることが多い。そのことに対して無責任だと思うし、自分に火の粉が降りかかってきたら嫌だなと思ってしまうこともあり、見て見ぬふりをしている自分に対して不甲斐なさを感じていました。
理想としては、この問題に対してみんなで考え、予防や解決していくってことがゲームを通じてできたらという想いがありました。
“第三者の視点”があって得られる気づき
ーありがとうございます。今回、アイデア賞を受賞されていますが、ご自身では自己評価のほどはいかがでしたか?
正直に言うと、そんなに高くなかったです。
ーそうなんですね!
先人のゲームを作られている方は沢山いて、その方々に比べると、自分の実力不足を実感しました。
自己評価というところでは、ゲームを作ることに関しても、もっともっといいものが作れたはずだし、研究することに関しても、いい研究ができたんじゃないかという心残りみたいなものはありました。
ー当コンペを通じて、新たな発見や改善点はありましたか?
コンペに出したからこそ、「このゲームはどのようなゲームなんだろうか」「このゲームはどのように世の中の役に立つのだろうか」といった整理ができました。また、自分の作ったゲームの特長を他の方にどのように伝えたらよいかというところや、自分の作ったゲームについて俯瞰したり、深く考えたりするきっかけももらいました。
参加させていただいた結果、「面白いですね」と言ってもらえたり、一緒にゲームの活用方法を考えられたらいいですねというようなお声をいただいたりして、ありがたかったです。
コンペでアイデア賞をいただき、審査員の方々からコメントをいただけたことによって、ブラッシュアップできそうなところがいっぱい見えてきました。ですから、改善できそうなことでいえば沢山ありますね(笑)。
ー第三者の視点が入ることによって気づきを得られたところもあるんですね。今回の作品は、おひとりで制作されたのでしょうか?
ひとりかと言うと……半分イエスで、半分ノーです。
やはりゲームを作ることや研究するということは、自分で調べたり、アイデアを出したりしなければならないですし、最後は、ひとりで判断することがすごく重要だと思いました。一方で、たくさんの方にインタビューしましたし、過去の論文や書籍も参考にしました。プロトタイプが完成した後も、たくさんの方がゲームを体験し、フィードバックをいただいています。
そういった意味で、ひとりで作らなければならないところもあるし、ひとりでは絶対に作れないと思います。
ー色んな方にインタビューをする上で、センシティブなテーマを取り扱う上で気をつけた点はありますか?
もちろん、匿名性を重視しました。また、職場でのいじめや嫌がらせを受けた方の中には、その話をしたくないという方もいらっしゃるので、その場合には無理強いをしないようにしました。
ただ、第三者として経験していない方というのは少なくて、お話をしてくださる方が多かったです。第三者の視点で、色々とお話を聞かせていただく事ができました。
ー傍観者(第三者)の介入、がテーマの肝なのでその視点のお話は重要ですよね。
もちろん、私を信頼してくださって、行為者になってしまった方や、被害者を受けた方のお話もうかがえたので、ゲームを作成する上ではとても有意義だったと思います。
ーそういうインタビューを含め、どのように製作を進めていきましたか?
私の場合は、修士研究の一環で製作していたので、完成させなければならない日は決まっていました。2021年1月の末に修士論文の審査会があり、そこまでに論文をまとめなければいけなかったので……逆算してスケジュールを引いていきました。
2019年の夏頃からインタビューをして、プロトタイプができて、ゲームを体験していただき始めたのが2020年6月からです。
ーちょうど1年!
そうですね。働きながらだったり、大学院での講義を受けたりしつつ、製作をはじめてから、1年くらいは右往左往していたのですが、2021年9月の下旬には完成品という形になりました。
ゲームで学び、現実に生きる
ー製作過程で苦労したエピソードはありましたか?
COVID-19の影響で、雑談が出来なくなって、「こういう風なゲームを作ろうと考えてるんだけど……」みたいなことが気軽に聞けなくなってしまいました。自分ひとりで考えるだけではなく、他の方の意見を聞くことで、気がつくことがあると思うので、そういう雑談が出来なかったことは苦しかったです。
ーひとりで根詰めて考えるのは辛そうですね……。他にも課題はありましたか?
職場のいじめ・嫌がらせをテーマにすると、「止めるのが正しい」。でも、倫理的、道徳的観点からいうと当たり前のことなので、「止めることが正しいよ」と伝えても「正しいに決まっているよね」で終わってしまうところが今回のテーマの難しいところでした。
ーたしかにそうですよね。そこのアプローチはどう考えられたんですか?
職場のいじめ・嫌がらせを傍観者として体験すると、次は止めたり、声をかけたりしようと思ったりするのではと考えました。
自分がいじめ・嫌がらせを経験してみないと、わからない・気づかないことって沢山あると思うんです。それが実際の現場で起こってしまうと大変なことになってしまうので、ゲームで経験できれば、現実に起きたときに、行為者を注意しようとか、被害者の方を助けようという発想になり、もう少し早く気づいて介入することができるのではと思いました。
最終的には、ゲーム通じて、必ず失敗体験をするようにしました。上手くいかなかった経験をしてもらうことで、次に現実世界で起こったらどうすればいいだろうと、当事者意識を持ってもらったり、解決策を考えてもらったりするようにしました。
ー考えることが重要なポイントなんですね。
疑似体験することで、問題に対して考えることができるのがゲームのよさですね。
ー今回、研究の一環でのご参加との事でしたが、研究が一段落されて、今後はどうしていきたいという展望はありますか?
今回、いろいろな方にゲームを体験してもらったことで、いろいろなお話を聞けたので、研究結果をもとにもう一段階アップグレードしたバージョンを作りたいと思っています。研究としては一区切りついたので、成果として論文投稿や学会発表をして、学術的に少しでも貢献できたらいいなと思います。
ー最後に、作品を届けたい方々へ一言くださいませ!
まず、実際に、職場のいじめ・嫌がらせに困っている方や悩んでいる方たちに活用していただけるようなゲームにしたいです。
あと、ゲームで社会問題やビジネスの課題を解決するという考えがまだまだ一般的ではないので、ゲームの可能性を感じて、自分でも作ってみたい・研究してみたいという人がもっと増えればいいなと思います。
インタビュアーコメント:
重要なテーマについて深掘ったお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
もし、どこかで職場のいじめ・嫌がらせが起きているとすれば、誰しもが「傍観者」となり得ます。
被害者の方だけでなく、皆がこのゲームを知る事、関心を持つ事で、周囲の環境を振り返るきっかけになるのではないでしょうか。
世の中の人々が気持ちよく働ける環境に貢献してくださるような作品をご製作いただいた太田さん、ありがとうございます!