インタビュアー紹介:
【上原さん】
「コミュニティコーピング」の企画・設計やユドナリウム制作を担当。まちづくりゲーム団体UrboLab代表として、社会的テーマを題材としたアナログゲームの制作・普及に取り組んでいる。地方自治体、コンサルティング会社でのキャリアを経て、現在、本業はNPO法人に勤務。
【千葉さん】
一社)コレカラ・サポートの代表理事として、「コミュニティコーピング」等、各プロジェクトの事業計画立案・推進を担当。また、専門職として複雑多岐な悩みを抱える個人と家族の相談支援を行いながら、専門家や企業、団体をつなげるリンクワーカーの役割を担う。1級FP技能士、グリーフケアアドバイザー。
【佐藤さん】
一般企業で人事を務める傍ら、人が本当の幸せを感じるためには「自分やその周囲の環境について正しく知ること」が絶対に必要と信じ、活動している。コミュニティコーピングでは、「特定の目線に偏らず、事の本質を知ろう」とする取組みの意義を、ゲームコンテンツに反映させるべくプロデュースを担当。
【影山さん】
数々のまちづくりプロジェクトのファシリテーションやコーディネーションを行う。NPO、行政、企業、それぞれの立場でのコーディネーションを経験しているため、それぞれの視点に立ちバランス感覚のあるコーディネーションに定評がある。コミュニティコーピングのファシリテーターや全体監修を担当。
「コミュニティコーピング」とは?
人と地域資源をつなげることで「社会的孤立」を解消する協力型ゲームです。
高齢化に伴って発生する悩みに対して、一人ひとりの本当の悩みを明らかにし、専門家や地域の繋がりを処方してあげることで、チームで力を合わせて地域社会の崩壊を防ぎます。
▼「コミュニティコーピング」公式サイト
▼プレゼン動画はこちらよりご覧ください
https://www.altplus.co.jp/jgc/the1st/second.html
ー今回は、準グランプリ受賞おめでとうございます!
受賞作品にかけた思い、こだわりのポイントなどアピールポイントを教えてください!
千葉さん:このゲームを作った目的は、社会課題に対して潜在的な関心層にはじめの一歩を踏み出してもらいたいということだったので、その一歩を踏み出してもらうために、まず純粋に「楽しい」というところにこだわりました。
上原さん:私は「コレカラ・サポート」代表である千葉さんの想いを受ける形でこのゲームに落とし込む作業をしていったので、大事にしたポイントとしては千葉さんの想いです。千葉さんは、ずっと高齢者の方の支援をやってらっしゃったので、その豊富な経験の中で伝えたいポイントをゲーム上で表現することに一番こだわって作りました。ゲーム上でいうと、「コーピング」※というアクションを通じてその人の悩みが明らかになるということや、社会資源を繋ぐことによって悩みが解決できるということなどを表現できたことが、よかったと思います。
※注:「コーピング」とは、「課題と向き合う、対処する」という意味。
ー千葉さんは、元々高齢化社会への貢献活動をされていたんですね? そこに貢献しようと思われたきっかけとかってあったんでしょうか?
千葉さん:ゲームを開発した「コレカラ・サポート」という団体が、2011年の震災をきっかけに活動を始めてます。私自身は、ゲームにも登場する「FP」というお金の相談を受ける人なのですが、その当時、色んな高齢者の方などから相談を受けるようになったことがきっかけに、ケアマネやNPOなど、色んな人が集まってワンストップで相談できる活動をしたいなという思いで団体を設立しました。困っている方のお家に訪問して相談を受けるようになると、困っている当事者の人と、周りのお世話されている家族の人がいると、家族の人も困っている、と。これはゲームでも表現していました。
そういった中で、一人暮らしの人、老々世帯の人とか、頼る人がいない人が増えてきているのを実感していて、社会制度が届かない人が地域の中に結構いるということに気づきました。それをなんとか解消していきたいと、活動の中で感じていて、それが超高齢社会をテーマにしたきっかけになっています。この先孤立していく人が増えていくだろうな、というところで、じゃあ誰が支援するんだろうなって想いがあったので、潜在的な関心を持っている人を増やして、社会にプレイヤーを増やしたいなっていうのがありますね。
ー当事者意識を持ってもらうことが大事、ということですね。
千葉さん:最初実は、支援活動しているので人材育成の講座とか研修みたいなコンテンツを用意して、真面目にやってたのですが、なかなか真面目なもので集めようとしても、真面目な人しか来ないんですよ。多分、潜在的に何か役に立ちたいと思っている人に、情報を届けるまでっていうのがとてもハードルが高くて、ってなった時に、多分真面目にやっちゃダメなんだなぁと(笑)同じ時期に、たまたまある介護系のイベントに出たら、こういうところに集まる人って真面目な人が多くてつまらないよねって(笑)
ー率直なご意見!(笑)
千葉さん:で、その時に例えばアメリカの軍隊だと、売店出して、ホットドックを売りながら勧誘するとか、そういうことをやるわけですよ。そういう発想で人を巻き込まなきゃいけないのかなって。そこから、人が動くって、「楽しい」だし、「嬉しい」だし、なんだろうなって……「楽しむ」、じゃあ「ゲーム」! っていうので、ゲームに辿り着きました。
ーゲームっていうモチーフを使うに至るまで、そういった逆算の意図があったんですね!
千葉さん:そうですね。まずゲームを作ろうからじゃなくて、うまくいかないことの壁にぶつかって辿り着いたゲームですね。
ー手段としてのゲームというのが、まさにゲーミフィケーションですね!
千葉さん:人を動かすってゲーミフィケーションの要素がものすごく大事だと思っていて、私自身はマーケティングの観点でゲーミフィケーションは別ルートで意識して使っていたんですけれど、やっぱり高齢化社会のようなテーマに対してもゲーミフィケーションを通して楽しみを作ることが出来れば人を巻き込めるんじゃない? っていう。楽しい中に真面目なシナリオを入れてあげれば、座学的に知識を覚えるじゃなく、経験するということが大事だと思っているので、そうした経験ができる世界をシリアスゲームで作れるといいのかなっていうのがあります。
ーチームの皆様が、共通課題として「高齢化社会」をテーマに一致団結するまでにはどんな経緯があったんでしょうか?
上原さん:きっかけでいうと、一番遠かったのは私なんですけれど(笑)メンバーの影山さんに巻き込まれた形ですね。
影山さん:(笑)
上原さん:もともと千葉さんと影山さんと佐藤さんが活動されていて、そこに影山さんにご紹介いただいて、ジョインしました。ただ、個人的に全く関心がなかった訳ではなく、ちょうど同じタイミングで身近な人が介護をしていたのもあり、とても身近なテーマだと思っていました。ゲームの中でも、「若い人って悩みも浅いんじゃないか」っていう会話もよく見られますしたけれど、全然そんなことなくて、僕と同じ世代の人でも高齢化にまつわる問題を抱えている人はいるというのは肌感覚として持っていました。
千葉さん:私が影山さんとお会いしたのが……かれこれ7年くらい前だっけ?
影山さん:そのぐらいですね。千葉さんが先に活動されていて、私その頃20代前半くらいだったのですが、そこからコレカラ・サポートの理事もさせていただいています。他にも、街づくりのコーディネーターだとか、NPOの支援をして色んな地域を回っています。
高齢化の課題は、私にとっても地域を取り巻く上でも非常に大事な切り口の課題です。コレカラ・サポートの理事にジョインさせていただく中で、「コーピング」をする人を増やしたいね、ということで養成講座なんかも試行錯誤しながら実施していました。それでも、なかなかうまく広がらなくて、参加のハードルを下げつつ、こういう地域課題が地域の社会にあるんだっていうのを知ってもらう取り組みを作っていく必要があると考えていました。その時に、自分がレゴブロックを使ったワークショップの資格を取ったりして、遊びみたいなものを切り口にしていくのって面白いなぁって千葉さん佐藤さんとも話していました。そこで最初は自分たちでゲームを作ろうとしたんですけど、なかなか面白いものができなくて、餅は餅屋ということでゲームを作られている上原さんを巻き込んで……という風にできていったチームです。
ーすごい! 色んな関わりが繋がっていったんですね!
千葉さん:一点だけ補足させていただくと、上原さんがジョインする前のゲームはすごくつまらなかったんですよ(笑)当初は名刺とか使って、作ってたのですが、メンバーでやってみて、全員微妙な顔をしていて。すごい時間かけてやってきたから、もったいないなとも思いつつも、これ、面白くないねという結論に至って。上原さんが入ってくれて、パズルのピースが揃った感じですよ!
ーわぁ、ドラマがありますね〜!
上原さん:その話知らなかったです。それ知ってたら、すごいプレッシャーだったなぁ(笑)
ー「ユドナリウム」というツールの導入も、上原さんの発案ですか?
千葉さん:まさしく。コロナ禍で、オンラインにした方がいいね〜となって、上原さんが色々探ってくれたんです。
ー今回、制作された作品の皆様の自信のほどは如何でしたでしょうか?
上原さん:自信とまでは言えないのですが、ゲームの手応えを感じた瞬間は2回ほどありました。
最初は、千葉さんからコーピングという考え方の概要や、どんなことを伝えたいのかを聞いて、それをゲームの企画に落としてみますって言って、ゲームの企画書を出した時です。その時はドキドキしながら、無地のカードなどを使って千葉さん影山さん佐藤さんの前で、提案のような形で出したのですが、皆さんからすごく評価していただいて。「このゲームが伝えたいことをよく表している」と言ってもらえてすごく嬉しかったです。
二つ目が、実際に提供してからですね。ベータ版という形で6回くらい開催して、アンケート結果を見ると38人の方に体験していただいたのですが、予想以上にアンケートの結果が高く、「楽しさ」が5段階評価で平均4.38をいただいたり、「また遊びたい」という項目が平均4.57だったり。嬉しい数字をいただいたことに加えて、さまざまな気づきの言葉を参加者からいただいて、こちらが思っている以上に汲み取ってもらえるものなんだなと手応えを感じることができました。
千葉さん:上原さんが来る前は、ゲームをつくっても「つまんない」ってちゃぶ台返しをしたんですよ。ぐちゃぐちゃの闇鍋状態で(笑)そして、(上原さんに)材料だけ渡して料理してもらったら「一口目からめちゃくちゃ美味いじゃん!」みたいな感覚でした。全部を盛り込むとToo muchになるところを、上手く情報の取捨選択をしてもらったと思っています。……代わりに答えましょうか、受賞の自信はありましたよね、上原さん?
上原さん:(笑)
千葉さん:上原さんはね、謙虚な人なので言わないかもしれないですけど(笑)でもありがたいですよね、評価をいただくって。
影山さん:私は多分受賞するんじゃないかなって思ってました。というのも、私結構ゲーム好きなんですよ。ずっと色んなゲームとかやってたんですが。上原さんが持ってきてくれたものが、ゲーム性が高くて。純粋にやっていて、試行錯誤とかが面白さなんですよね。また、上原さんがしっかり千葉さんや我々がやってきたことや考えてきたことを聞いてくれて、一つ一つのアクションに意味があるんですよ。アクションに伝えたい意味っていうのを付加してくださってるんです。それがやっぱりすごい価値だなと思っていて。
佐藤さん:コミュニティコーピングの持っている意味やもたらすものについては、そこはとても自信というか、受賞できなくてもどうということはないみたいな開き直りのようなものはありました。
千葉さん:佐藤さんは「なんでグランプリじゃないんだ!」くらい言ってくれるかと思った(笑)
佐藤さん:(笑)でも、自信を持ってやっているのは間違いないですね。
ー企画の考え方については、どのように考え進めましたか?
上原さん:企画の考え方については、最初千葉さんにじっくり話を聞いた時、コレカラ・サポートとしての知見が体系立てて整理されていたのがとてもありがたかったです。コーピングの考え方や、課題の4分類など、伝えるべき知見が整理されていたので、そこはゲームに取り入れたいと思いました。他にも、ポイントがいくつかあったので、それらを取捨選択しながら定めていきました。
考えた過程としては、コーピングというのがテーマなので、当初は、1対1でコーピングをするような場面を体験するゲームを作った方がいいのかなぁとも思いました。ただ、1対1で高齢者の悩みを聴く形式だと生々しくなってしまうのかなと思い、また、地域社会のあり方を俯瞰してみるゲームにした方が、色んな方にメッセージを届けやすいのかな、それなら協力型で地域を守っていくというゲームが良いかな、というように思考が進んで、今のゲーム構造に至りました。
ー制作プロセスについて、どのようなフローで進められましたか?
上原さん:去年の1月にプロジェクトが始まった時に、内部でロードマップ案を共有していました。1年かけてゲーム制作していこうということで、もともとリアル版を想定していたのですが、結果、割とこのロードマップ案に沿って進められたかなと思います。4,5,6月で(新型ウイルス流行の影響があり)リアルでは難しいなとなって、オンラインの方向を模索し、ユドナリウムでの実装に取り掛かりました。8月からβ版で提供を開始したのですが、本来ならばここで印刷所に入稿するところでした。8,9月でトライアルをして、10月から正式版という形でオープン、というスケジュールで動いていました。
ー制作中に課題となったことはありましたか?
上原さん:テストプレイをして課題が出てくる度に、改善を繰り返していきました。メンバーに色々アイデアを出してもらったのでそんなに大きな壁はなかったのですが、強いてあげれば、テストプレイで色んなアイデアが出てくる中で、すべての意見を取り入れるのは難しいので、その重要度合を見極める線引きが、最初は難しかったなと思っています。トライアルを繰り返して、我々が伝えたいメッセージを話し合う中で、コアとなるものが磨かれていったのかなと思います。佐藤さんがとても本質を大事にされていたので、佐藤さんの意見に対する信頼はずっと持てていました。
ーお話の端々から伝わってくるチームワークですね!(笑)
佐藤さん:そこが僕の役割というか、ある意味、そこを踏み外しちゃったら僕がいる意味はないなと思ったので、そこの意識はしています。コーピングっていう考え方が、世の中の今課題を抱えている人たちを助ける第一歩というのを信じたのが出発点なので、「ゲームが楽しい」だけでなく、それを伝えるんだということを常に自問自答していました。ゲーミフィケーションという言葉を上原さんから聞いた時も、ゲームで課題を解決するというコンセプトに合っている、とか、そういう答え合わせをしていましたね。
ー当コンペを通じて、これからどうしていきたい、という夢や展望は生まれましたか?
千葉さん:一言で言うなら、「第二の任天堂」ですかね! これはいつも半分ネタでいってます(笑)これもある意味ゲーミフィケーションで、面白いねって言われるものを目指すのって大事なので、勝手に私が言ってます(笑)
真面目なところで言うと、もともと目的は人を育てることなんですよ。タッグを組みたい企業でいうと、街づくりであったり、社会貢献を目指すような企業や、自治体とか。あと、学生さんとかにこういうのをプレイしてもらえるといいんじゃないかというので、教育現場、なんか(に提供できると)いいんじゃないかと思っています。そのために、広報や、普及活動に私達は力を注ぐ必要があると思っているので、そこの協力を求めています。夢や展望でいうと、ゆくゆくはスマホであったりとか、VRを使ったりとか、そういうものでシリアスゲームとかゲーミフィケーションを活用することで、人材を増やして最終的にはプレイヤーが増えるといいなと思っています。
佐藤さん:僕は元々コーピングに興味があるので、小学校の道徳の時間に代わってコーピングの授業があってもいいんじゃないかと思うくらい、意味のある考え方だと思っているので、そういうところで授業として使われて、人間としての力を身につけていってもらいたいなと思います。
上原さん:準グランプリをいただけたことは、自信に繋がりましたし、より多くの人に体験してもらいたいなという想いは強くなりました。ぜひ、知らない人にも届いてほしいなと思っています。認定ファシリテーターの募集も今しているのですが、そういった届ける役割の人が増えれば増えるほど、このゲームを体験する人は増えますし、このゲームの価値がより多くの人に届くのかなと思っています。なので、認定ファシリテーターが増えていくことと、協働でこのゲームを広めていけるような企業とタッグを組めたらいいなと思っています。
ー当コンペを通じて発見した改善項目やブラッシュアップできそうな部分の発見はありましたか?
上原さん:コンペですごく悔しいなと思っているところが、カスタマイズ性に関するご質問でした。このゲームも全然カスタマイズできると思っているので、用途に応じたカスタマイズの可能性を今後も模索していければなと思っています。
ー最後に、作品を届けたい方々へ一言くださいませ!
上原さん:まずは体験してもらいたいなと思います! ので、ぜひ体験してください!(笑)
佐藤さん:でもこれに尽きるよなぁ。まずはやってみて、気づきを得るだけで十分なので、まずはやっていただく、そして気づいていただければな、と思います。
千葉さん:このコンペティションの「ゲームで世の中は変えられる」というキャッチコピーが個人的にすごく気に入っていて、私も手段として世の中を変えられるんだとしたら、作品を届けたい方々へ一言を届けるのであれば「変える主人公はあなたです」ですね!
インタビュイーコメント:
制作メンバーみなさまの仲の良さを伺える、とても和気藹々としたインタビューのお時間をありがとうございました!
フレンドリーなインタビュアーのみなさまとも実際に交流できますので、ぜひ「コミュニティコーピング」にご参加してみてください!
▼「コミュニティコーピング」Facebookページ
https://www.facebook.com/communitycoping
▼プレゼン使用スライド