近頃、地方創生を目的としたメタバース活用事例が増えてきており、中でも観光情報発信や特産品販売を目的とするものが目立つようになりました。地方創生にメタバースを活用することは、広い視点で見れば、地域経済の活性化に繋がるポテンシャルを持っています。
社会問題になっている少子高齢化は、地方自治体の存続にも大きな影響を与えます。メタバースの活用で関係人口をつくることよって経済活性化を促すだけでなく、ふるさと納税による特産物などの購入で、さらに多くの財源獲得を実現することも可能です。そのために、商店街と地方自治体との連携は不可欠です。
今回は、地方を中心に集客や存続などの課題を抱えている「商店街」の活性施策として、ゲーミフィケーション要素が多く含まれるメタバースがどのように利用されているのか、5つの事例をピックアップしてご紹介します。
メタバースって何?
すでにご存知の方も多いと思いますが、まずはメタバースの基本的なことについてご説明します。メタバースとは、バーチャル上の3次元の仮想空間のことです。2010年に公開されたアメリカのSFアクション映画『トロン:レガシー』を思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか?ゲームセンターの秘密の地下室から別世界に迷い込むことから始まるストーリーですが、現実世界なのか仮想世界なのか、交錯しながら展開する映画は他にも思い出されるでしょう。
メタバースは造語で、「高い次元の」「超越した」という意味の「メタ」と、「世界」を意味する「ユニバース」を組み合わせたものだといわれています。メタバースという言葉が世界で初めて使われたのは、1992年に発表されたニール・スティーヴンスン氏のSF小説『スノウ・クラッシュ』でした。そして、実際に作られた世界初といわれるメタバース空間は、2003年にリンデンラボ社が開発した「セカンドライフ」でした。当時、ある企業がこのバーチャル空間でスキージャンプ大会をしていたことが思い出されます。
メタバースの世界では、ユーザーの分身であるアバターを作り、他のユーザーとコミュニケーションや様々な活動を行います。まさに、ゲーミフィケーションを多用しているわけですが、わかりやすい例では、ゲーム端末で遊べる「あつまれ どうぶつの森」(任天堂)や「FORTNITE」(Epic Games,)が挙げられます。他にも、ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)などの、より没入感を得られるデバイスも普及し始めています。
メタバースの市場規模
総務省の「令和5年版 情報通信白書」(※1) によると、世界のメタバース市場(インフラ、ハードウェア、ソフトウェア、サービスの合計)は、2022年の8兆6,144億円から、2030年には123兆9,738億円まで拡大すると予想されています。また、日本のメタバース市場[メタバースプラットフォーム、プラットフォーム以外(コンテンツ、インフラ)、XR(VR、AR、MR)機器の合計]は、2022年度に1,825億円(前年度比145.3%増)と推定され、2026年度には1兆42億円まで拡大すると予測されています。市場の拡大には、コロナ禍の後押しによって仮想空間を利用した展示会や社内イベント、教育、インターネット通販などで利用が拡大している背景もあります。
(※1) 出典:総務省 令和5年度版 情報通信白書 メタバース
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd247520.html
島根県しまね縁結び商店街
2022年5月20日から期間限定(現在は終了)でオープンしたメタバースで買い物ができる「しまね縁結び商店街」。島根県の特産品や暮らしの情報がパソコンで楽しめる、日本初の仮想空間内の商店街です。
コロナ禍による外出自粛の影響を打開すべく、実際の商店街ではなく、あくまでメタバースとしてつくられたこの商店街は、リアルではなくても人が集まり、会話し、買い物をしたり、交流したりする場にしたいという思いで作られました。
メタバースのアプリケーション「Virbela」(※2) をインストールすることで、ユーザーは自分のアバターで商店街の各店舗上でショッピングやイベントをHMD(ヘッドマウントディスプレイ)不要で楽しむことができるものでした。来訪者は店員から商品の説明を聞いたり、暮らしに関する会話をしたり、物理的距離の制約を越えたコミュニケーションを実現していました。
この取組みは、コロナ禍による停滞の打開策としてだけではなく、インターネット通販として全国だけでなく海外も視野に入れた、観光誘致にも繋がる新しい地方創生の取組みとして注目された事例となりました。
訪問ユーザー(アバター)数は、開設1週間で1800を超え、期間中約1万人にも及びました。
参考記事:TECH+ Powered byマイイナビニュース「日本初、島根にメタバース商店街がオープン!」
(※2) Virbelaは、リモートワーク、学習、およびイベントのための魅力的なメタバース(3D仮想世界)。eXp World Holdings、Inc.(Nasdaq:EXPI)が所有しており、日本の公式販売代理店はガイアリンク。
岡山県岡山市北区 西奉還町商店街
岡山駅前の立地に恵まれた「奉還町商店街」のアーケードを越えた先にあるのが「西奉還町商店街」。昭和感漂うレトロな雰囲気で、昔ながらのタバコ屋さんや自転車屋さんもありますが、閉店したお店もちらほら。
2022年7月と翌年1月に期間限定で開催された「西奉還町商店街」の「NEO HOUKAN」イベントは、メタバースプラットフォーム「STYLY」(※3) をダウンロードし、スマートフォンやPC、各種HMDなどでAR体験ができるものでした。実際の商店街の中でAR技術を駆使したデジタルアート作品やNFT作品を商店街内のARスポット各所で見ることができました。背景としては、様々なコミュニティと連携し、実施に繋げたようです。2023年5月中旬からNFTauth(※4) を使うと商店街の店舗で特典を受けられるサービスが開始されるなど、進化を続けています。
Youtubeにアーカイブがありましたので、是非ご覧ください。
Youtube:NEO HOUKAN PV | Neo西奉還町メタバース化計画
(※3) STYLYは、株式会社Psychic VR Labが開発・運営するVR/AR/MRクリエイティブプラットフォーム
(※4) SNFTauthは、synschismo株式会社がもつソリューションで、ユーザーのウォレットに対して特定のNFTの保有を確認・認証することができるシステム。事業者は事前に認証するNFTや認証時の条件などを登録し、ユーザーはQR認証を利用して、簡単にNFTの保有証明をすることができる。
大分県大分市府内五番街商店街
大分市府内五番街商店街振興組合のメタバース商店街「5thAve.METAVERSE」は、2023年1月23~29日にソーシャルVRプラットフォーム「NeosVR」(※5) 上で公開されました。コロナ禍の厳しい状況を打開するために、中小企業庁の事業補助金を活用して制作されたそうです。
詳しくは、以下の動画ニュースをご覧ください。
Youtube:TOSテレビ大分 ニュース【公式】「商店街を仮想空間に「すごくリアル」地域を世界に発信 買い物への活用も検討【大分】」
「5thAve.METAVERSE」が目指したのは、世界中からお客さんが訪れる商店街です。メタバース上で忠実に商店街を再現し、ユーザーは専用アプリをインストールすることで、HMDやPCから訪問可能となっていました。
(※5) NeosVRは、チェコのSolirax社が開発したソーシャルVRプラットフォーム。
長野県阿智村メタバース商店街
地元商工会によるメタバース商店街の構築では日本初の「阿智村メタバース商店街」。
長野県の阿智村商工会は、事業発展と地域振興を目的としてこのメタバース商店街を制作し、昭和30年代の阿智村の商店街をデジタルで再現しました。これには来訪者に、阿智村の歴史を感じてもらいながら製品やサービス内容を魅力的に体験してもらう狙いがありました。
この商店街には、「Spatial(スペーシャル)」(※6) のPCソフトやスマートフォン専用アプリをインストールすることで訪問することができました。
(※6) Spatialは米のスタートアップ企業が運営するメタバースプラットフォーム
東京都豊島区巣鴨大鳥神社商店街メタバース門前町
こちらは地方ではなく、都内の事例です。
2023年4月、巣一商店会と大鳥商店会が合併し「巣鴨大鳥神社商店街」へと生まれ変わりました。この商店街のシンボルとして、長年地元で愛されてきた 「巣鴨大鳥神社」と「子育て稲荷」があります。周辺地域に住む人々や歴史と大型店舗にはない魅力を伝えながら、この商店街が目指す「子育ての街」としての姿を、メタバース空間で表現しています。
商店街への来訪を促し、街の魅力を伝えることで、移住促進にも繋げる目的もあるようです。
尚、この事業は「令和5年度 東京都デジタル化推進事業」の採択案件で、商店街を中心に実施に至りました。
この「巣鴨大鳥神社商店街メタバース門前町」には、実在する商店や事業者が作り出され、バーチャル盆踊り広場や縁日コーナーが設けられ、毎年開催される「巣鴨盆踊り」の様子を見ることができました。
また、会場内に隠された仕掛けをクリアすると秘密のパワースポットへの道が開けるなど、ゲーミフィケーション要素もしっかりと含まれていました。
参考記事:PR TIMES:株式会社スリーピー 「【巣鴨大鳥神社商店街メタバース門前町】好評配信中!メタバース空間で歴史香る商店街の魅力を表現します!」
さいごに
いかがでしたでしょうか?今回は、地方商店街を中心としたメタバース事例をご紹介しました。
メタバース活用事例の中でも、敢えて商店街に限定してのご紹介でしたが、ヒントになる部分もあったのではないでしょうか?
地方創生のためのメタバースを活用した取組みは、毎年増加傾向となっています。
全国の地方自治体が抱える課題には、「人口減少と少子高齢化」「地域経済の衰退」「労働力不足」「デジタル化への遅れ」などが挙げられます。メタバースの活用は、これらの課題を助けるひとつの手段になりうるのではないでしょうか?
今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。