【第三回】DXの攻略法:「ゲーミフィケーション」を用いたデジタルトランスフォーメーション(3)

  • 2021年10月15日
  • 2024年3月25日

■情報技術の発展とデジタルエンタテインメント

第一回の連載で述べたように、デジタルトランスフォーメーション(DX)の先に私たちの目指すべき社会はサイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した「Society 5.0」とも呼ばれる超スマート社会です。その社会では日常生活と情報技術が切り離せない関係となりますので、ここでは連載の第二回でみてきたような「人間的」で「右脳的」な要素、ある意味で「非合理」で「本能的」な要素を表現するために、さまざまな情報技術を最大限に活用していくことが求められます。

2010年にスティーブ・ジョブズは、自分たちが常に「テクノロジーとリベラルアーツの交差点」にあろうとしてきたと述べました。そこでは高度なテクノロジーを活用しながらも、ユーザーが技術に合わせるのではなく、技術がユーザーに寄り添うのです。DXの考え方においても同じことが言えるでしょう。ゲーミフィケーションの生み出す体験価値が横糸であるとするならば、AI、DX、AR、5Gといった情報技術の縦糸が強さを与えます。それらは相互に絡み合い、私たちの社会を包み込む大きな布となります。

デジタルエンタテインメントの世界ではこれまでも世の中の様々な技術を取り入れて遊びを創造してきました。そのノウハウはDXを構成する上においても同じように活用していくことができるでしょう。そしてこのことこそが、私たちが「2025年の崖」を超えて社会全体でDXを強く推し進めていくために必要なことであると考えています。

今回の記事では、これらの世界で利用され、注目されている主な技術について概観し、SEGA XDでの取り組みの紹介も交えながら、それがどのように活用され得るかについても考えてみたいと思います。

■XR(VR/AR/MR)

VR(Virtual Reality/仮想現実)、AR(Augumented Reality/拡張現実)、MR(Mixed Reality/複合現実)といった技術を総称して「XR」と呼びます。

VRではHMD(ヘッドマウントディスプレイ)と呼ばれるゴーグル型の機器を高性能なPCなどと接続してコンテンツを利用する形態が主流でしたが、近年ではOculus Quest 2に代表されるようなスタンドアロン型の機器がその手軽さも相まって普及してきており、ハードウェアの高性能化、普及に合わせて本格的なゲームコンテンツなども増えてきています。ARでは「ARグラス」と呼ばれるメガネ型の機器が主流で、Google Glass、Microsoft HoloLens、Magic LeapやNrealLightといった機器が発売されています。

XRコンテンツは一般のスマートフォンなどでも体験可能となっており、ECサイト上における商品のプレビューや不動産の閲覧、イベントへの参加や教育など実用的な分野においても様々な活用が始まっている分野であるといえます。CG技術などを駆使して仮想の世界をユーザーに体験してもらうという意味で、ゲームやデジタルエンタテインメントの技術の応用が特に期待できる分野だといえます。

例えば、当社では「Virtua Fighter esports」の配信を記念して、Web AR技術を活用した「『Virtua Fighter』なりきりキャラクター」というサービスを開発しました。

Web上でもAR技術が利用できるようになったことで誰でも手軽に楽しむことができるようになっており、AR技術が私たちの身近になっている例と言えるでしょう。

※セガ エックスディーが開発した「Web AR」ソリューションが「バーチャファイター」シリーズ最新作のプロモーションに採用(https://segaxd.co.jp/news/newsrelease/04fbf9c3466b168a275362e633cb8a005e1788ba.html

※【Tech Blog】Web AR の実現例とライブラリについて①(https://segaxd.co.jp/blog/084a016e70eafd9d03cfc602f0a556452ad98c25.html

※【Tech Blog】Web AR の実現例とライブラリについて②(https://segaxd.co.jp/blog/c7998bd6e8077395c31ed9925c3c5f740e935a38.html

■5G(第5世代移動通信システム)

5Gは、既存の情報通信機器の高性能化による通信容量の増大を支えるとともに、IoT技術による膨大な数のデバイスをネットワークに接続することを可能にする技術です。2020年には日本でも大手通信事業者による商用5Gサービスが開始され、「5G元年」となりました。

移動体通信技術は2000年代の3G、2010年代のLTE/4Gそして2020年代の5Gネットワークというように、およそ10年ごとに世代交代が行われて性能が向上しています。5Gでは高速通信・低遅延・多接続といった特徴を有しており、スマートシティを実現する基盤の技術として期待されていると言えるでしょう。

5G通信の持つ能力を活用すると、複数の高精細な映像をモバイルデバイスに瞬時に配信したり、多数のIoT機器を低消費電力で接続してセンサーネットワークを構築すること、またはクラウド上で処理されたデータを自動運転車などのデバイスに超低遅延で配信することが可能となると考えられ、これは既存のビジネスに対しても大きなチャンスとなるでしょう。

また、2030年頃のサービス開始を目標として「beyond5G/6G」に関する議論も既に開始されおり、NTTドコモからは2020年1月に6Gに関するホワイトペーパー(※)が公開されています。6Gでは5Gの特徴である高速・低遅延・多接続といった特徴のさらなる高度化に加えてカバレッジの拡張、産業向けを想定した高信頼性の担保といったコンセプトが掲げられており、5Gに留まらず今後も無線通信の技術は発展を続けていくと言えるでしょう。

※ドコモ6Gホワイトペーパー https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/whitepaper_6g/

このような背景を踏まえ、当社では、社内研究チームとして5Gを活用して豊かな社会を作っていくとを目的に、研究・検証・環境整備などの取り組みを行っています。

※企業情報>R&D(研究開発)(https://segaxd.co.jp/company/research-development/

■ビッグデータ・AI

ビッグデータという言葉は総務省の情報通信白書(※)では「デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低コスト化によるIoTの進展により、スマートフォン等を通じた位置情報や行動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動等に関する情報、また小型化したセンサー等から得られる膨大なデータ」というように定義されています。「ビッグデータ」は2010年代に入ってからクラウドコンピューティングの発展とともにある種のバズワードとして広く注目されましたが、IoTの普及とともに改めて注目され、さらに重要性を増しているといえます。

そしてそのようなビッグデータを分析・処理するものがAI・機械学習といった技術です。2015年にAlphaGoが初めて囲碁において人間に勝利したことがディープラーニングの技術に大きく注目を集めるきっかけとなりましたが、AIの技術は画像処理や各種センサーからの非定型なデータの処理・分析、ロボットや自動運転の制御など幅広い分野での研究・活用が進んでいます。AIや機械学習は、あらゆる産業分野におけるデジタルトランスフォーメーションを支える上で欠くことのできない技術であるといえるでしょう。

ビッグデータの充実やAI技術は、これからのデジタル社会における頭脳に相当します。これを活用していくことは、一人ひとりのユーザーやその時々のコンテキストに寄り添ったきめ細やかなふるまいのできるシステムを構築し、人間中心の社会を実現していくために不可欠なものです。

※情報通信白書 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h29.html

SEGA XDは、Google Cloud™ のSell および Service パートナー認定を取得しており、クラウド技術を活用することで、このようなビッグデータやAI分野でのニーズに高いレベルで応えられるような体制を構築しています。

※Google Cloud™ Sell および Service パートナー認定を取得(https://segaxd.co.jp/news/newsrelease/01ac20b62dab6df30940fef38a600d726336858e.html

■IoT・ロボット

IoTはInternet of Thingsの略で、日本語では「モノのインターネット」とも言われ、あらゆる物がネットワークに接続された状態を指します。IoT以前の社会ではパソコンやスマートフォンといった「情報機器」だけがネットワークに接続可能でしたが、IoTの世界では家電やウェアラブル機器、街中に張り巡らされたセンサーなどあらゆるものがリアル空間の状態をデジタルデータとしてクラウド上のサイバー空間に送り込むようになります。そしてその先には、サイバー空間上にフィジカル空間のコピーを再現してそれの高度な把握・分析・制御が可能になるといった「デジタルツイン」という概念も生まれています。

そしてロボットは、そのようなサイバー空間に構築された状態をフィジカル空間にフィードバックするインターフェースとして機能します。ロボティクスの発達により、これまでは情報機器を通じて得た情報をもとに人間が処理するしかなかったフィジカル空間での行動を、ロボットなどのデジタル制御された機械たちが直接処理できるようになります。広義ではドローンや自動運転の技術などもこの中に含まれるでしょう。

現実世界の状態がデジタルツインとしてサイバー空間に再現されるようになれば、両者を連動させた新しい体験の創造が可能となります。また、デジタルエンタテインメントの世界で培った技術やノウハウはサイバー空間とのインターフェースになるロボットの動作表現においても活かしていくことができるでしょう。

たとえば、当社がイオンエンターテインメント株式会社様と開発した回遊ソリューションの「デジタルスタンプラリー」は、このようなリアルとの連動を実現しながら、コロナ禍に対応して非接触で楽しむことのできるソリューションとなっています。

※事例紹介>イオンエンターテインメント株式会社様(https://segaxd.co.jp/works/ionwalkrally.html

■まとめ:ゲーミフィケーションを活用し、より人間的な社会へ

ここまで、三回の連載を通じてデジタルトランスフォーメーション=DXとゲーミフィケーションの関わりについてみてきました。まず第一回(https://g-dx.jp/archives/5894)では、「デジタルトランスフォーメーション」の成り立ちとその本質、そしてそれが現在大きな注目を集めている背景について紹介しました。そして第二回(https://g-dx.jp/archives/7578)では、ゲーミフィケーションという手法がデジタルトランスフォーメーションを推進するにあたって大事であるとなぜいえるのか、その理由について紐解きました。そして今回の第三回では、その考え方を具体的に社会実装していくにあたって重要となるであろう技術について概観してきました。今回挙げた技術はいずれも私たちの直観や感情に訴えかけるリッチな表現や私たちの自然な感覚に即した自然なふるまいをするシステムの実現を可能にするものであり、これらは今後もさらなる発展を続けていくでしょう。

私たちがデジタルトランスフォーメーションの先に目指すものは、高度な情報技術を基盤としながら、「論理的で冷たい」デジタルと「柔軟であたたかみのある」リアルが二項対立した世界ではなく、両者が高度に融合して新たな価値を創造する、人間を中心とした「価値創造社会」です。それは情報技術を活用した効率化を実現しながらも、感情や感性に根差した人間的な体験が重視され、それを通じて様々な企業課題・社会課題を解決していく社会です。

私たちSEGA XDは、これまでに培ったデジタルエンタテインメントのノウハウを生かしてエンタテインメントソリューション事業を行う会社です。様々なデジタル技術を活用して新たな体験価値を創造し続けてきた私たちの技術やノウハウは、これからの社会の中で大きな役割を果していくことができると考えており、「『衝動』で課題を解決し、人々を幸せに」というSEGA XDのミッションが示すように、ゲーミフィケーションの力で社会のデジタル化=デジタルトランスフォーメーションを通じた豊な社会を実現していきたいと考えています。この連載を通して、ゲーミフィケーションを活用したデジタルトランスフォーメーションの取り組みにご興味を持たれた方は、ぜひご連絡いただければと思います。ぜひ一緒に、豊かなデジタル社会を創造していきましょう。


SEGA XD ホームページ

https://segaxd.co.jp/


この記事を書いた人

黒澤 裕之(くろさわ ひろゆき)

株式会社セガ エックスディー
ゲームプランナーやモバイルアプリ・ソーシャルアプリを開発する企業でシステムエンジニアを経てセガへ入社し、新規事業の開発部門を担当。現在はセガ エックスディー 執行役員としてゲームやエンタテインメントサービスのノウハウを活用し、企業や社会の課題解決を実現するべく活動中。