【第一回】「ゲーミフィケーション」を用いたデジタルトランスフォーメーション(1)

■注目を集める「デジタルトランスフォーメーション」

 

「デジタルトランスフォーメーション」またはその略称である「DX」という言葉がビジネスの世界で大きく注目されています。日々のニュースの中でも頻繁に取り上げられるようになり、この言葉を聞かない日はほとんどないと言えるような状況になってきました。

日本では「デジタル改革」として9月1日の創設を目指した「デジタル庁」に関する議論も行われています。デジタル改革では行政のデジタル化、教育のデジタル化やテレワークの推進等を目標として掲げています。これをきっかけに社会のデジタル化もいっそう進展し、デジタルトランスフォーメーションの流れはますます加速していくように見えます。また、昨年からの新型コロナウイルス感染症の世界的な流行も、この社会のデジタル化に向けた議論を大きく後押ししています。

「デジタルトランスフォーメーション」「DX」を冠した議論や取り組みがさかんに行われるようになっている一方で、これを実現しビジネスや組織の変革を伴う具体的な成果に結びつけることが難しいという声も聞かれるようになっていますが、それらの取り組みを具体的な成果に結びつけるために大事なことは何でしょうか?私たちはそのカギが「ゲーミフィケーション」にあると考えています。

本連載は、デジタルトランスフォーメーションにおけるゲーミフィケーションの重要性や価値、事例を様々な観点からご紹介できればと思っています。

この第一回記事では、その導入として、まず、その社会的背景となっている一般的なトレンドを筆者の視点からご紹介いたします。

 

■経済産業省におけるデジタルトランスフォーメーションと「2025年の崖」

日本においてDXという言葉が大きく注目されるようになったきっかけの一つに、経済産業省が2018年9月に「2025年の崖」というキーワードとともに発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」というレポート(※1)があります。

このレポートでは、ITシステムの老朽化やIT人材不足に伴って発生する「2025年の崖」を克服することによって2030年で実質GDP130兆円超の押上げが可能となる一方、これに失敗すれば2025年以降最大で年間12兆円(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性について指摘されおり、これを解決するためにデジタルトランスフォーメーションの実現が必要であるとされています。産業界におけるデジタルトランスフォーメーションは企業の存続をもかけた生命線であると同時に、競争力を維持・強化させて新たなビジネスチャンスを生み出していくために必要不可欠なものであるというわけです。

※1DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~

 

■日本の目指すべき姿としての「Society 5.0」

また、日本の内閣府からは2016年に策定された第5期科学技術・イノベーション基本計画(※1)において、デジタル化した将来の日本が目指すべき社会像として「Society 5.0」という概念が提唱され、これは2021年度から2025年度を対象とした第6期科学技術・イノベーション基本計画でも引き続き取り上げられています。ここでは、人間社会の発展過程を狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)とし、これに続く社会像を「Society 5.0」としています。これは「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」であり「超スマート社会」という風にも表現されます。

情報社会(Society 4.0)においては、フィジカル空間(現実社会)とサイバー空間(ネット上の世界)は分断されており、それでは知識や情報の共有が進まず分野横断的な情報連携が不十分であるという課題がありました。

これに対して情報技術の発展したこれからの社会では、IoT技術を利用してあらゆる物がインターネットを介して接続されることで、社会・経済活動における莫大なデータを収集することが可能になり、収集されたデータはAI技術により新たな用途へと応用することが可能になります。そして、これらの収集・分析されたデータはロボットや自動走行車などの技術を通じてフィジカル空間に還元されていきます。このようなサイバー空間とフィジカル空間が高度に融合して境目がなくなり、オンラインとオフラインという概念が消失した先に現れる社会が「Society 5.0」です。

つまり、デジタルトランスフォーメーションの推進はビジネスにおける変革だけでなく、超スマート社会という「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」をも実現するものなのです。

 


※2 第5期科学技術・イノベーション基本計画
※3 第6期科学技術・イノベーション基本計画

 

■デジタルトランスフォーメーションの源流

これらは全て、「デジタルトランスフォーメーション」という言葉の初出であるとされる、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって2004年に発表された“INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE”という論文での考え方を下敷きにしています。この中で、発展した情報技術は複雑に関連しあい、その変化は人間の生活のあらゆる側面に及んでいると指摘されました。

スマートフォンに代表されるような情報機器が私たちの生活の中に深く入り込み、2020年にはIoTの普及を大きく進展させることが期待される5Gネットワークの商用サービスが日本でも開始されました。また、ゲームの世界だけでなくAR・VRといった技術が実用的な用途で利用されはじめていたり、スマートスピーカーやロボットを日常で目にすることも珍しくなくなってきました。2004年に指摘されたような社会生活レベルでの変化が今まさに起きているといえるでしょう。

 

■DX実現のカギとなるゲーミフィケーション

ここまで、企業活動やビジネスの変革を推し進めて「2025年の崖」を克服するにとどまらず、「超スマート社会」「Society 5.0」という言葉で表現される新しい社会像を実現していくために必要不可欠なものが「デジタルトランスフォーメーション」であるということを見てきました。しかしこれまで述べたように、未だ大きな課題があることも事実です。

デジタルトランスフォーメーションの進行した社会において、情報技術は私たちの生活と分断されてそれ単体で存在するものではありません。両者は融合し、一体として人間中心の社会の構成要素となります。つまりそれらが一体化していく中において、その中心にいる人間の体験価値が重要になるということです。このあたりに、「ゲーミフィケーション」がデジタルトランスフォーメーションの実現に貢献できると考えられるヒントがありそうです。

次回は、私たちが「ゲーミフィケーション」こそがデジタルトランスフォーメーションの推進に貢献しうると考える理由について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。

 

 

この記事を書いた人

黒澤 裕之(くろさわ ひろゆき)

株式会社セガ エックスディー
ゲームプランナーやモバイルアプリ・ソーシャルアプリを開発する企業でシステムエンジニアを経てセガへ入社し、新規事業の開発部門を担当。現在はセガ エックスディー 執行役員としてゲームやエンタテインメントサービスのノウハウを活用し、企業や社会の課題解決を実現するべく活動中。