「ちゃんと歯磨きなさい!」
小さい頃、この言葉を何度となく母親から浴びせられ、渋々歯を磨いたという経験がある方は多いのではないでしょうか?
楽しくない事、やりたくない事も、ゲーミフィケーションを活用する事で楽しさを感じ、やりたくなるという良い事例として、歯磨きが楽しくなる『はみがき勇者』をご紹介します。
出典元: https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.litalico.brushinghero&hl=ja より
■『はみがき勇者』は就職困難者向けサービスを提供する会社から生まれた
「障害のない社会をつくる」というビジョンの下、 障害者向け就労支援事業や子どもの可能性を拡げる教育事業を全国展開する株式会社LITALICOが2018年10月31日に同アプリをリリース。
App Storeの「子ども向け・無料」カテゴリで一時ランキング1位を獲得するなど、広く受け入れられています。
SNS上でも、「はみがきが大の苦手だった我が子が、日本一はみがき好きの子供になった」などと賞賛の声が寄せられています。
■プレイヤーがやる事はたった一つだけ
『はみがき勇者』の仕組みは非常にシンプルで、主に下記3つの要素で構成されています。
①バトル→歯磨きをする動作をカメラが検知する事で敵に攻撃を与え、攻撃が繰り返されることで敵を倒します
②獲得→バトルで敵を倒して獲得したコインの数に応じて、自動でヒーローカードが手に入り、プレイヤーの攻撃力がアップします
③拡張→バトルを繰り返す事でプレイヤーの攻撃力がアップする為、何度がプレイをする事で、30ステージに登場するドラゴンを倒す事が出来ます。ドラゴンを倒すとプレイヤーの「勇者の兜」の見た目がグレードアップします
お気づきの通り、プレイヤーに求められる行動は”ただ歯磨きをするだけ”なのです。
しかし、その「歯磨き」という単純な行為を、なぜ子供たちはこんなにも熱中するのでしょうか。
■はみがき勇者はゲーミフィケーション要素の塊だった
実際に、バトルの部分だけにフォーカスを当てるだけで、様々な工夫が仕込まれている事が分かります。
・ユーザーは勇者の兜をかぶった姿が表示される
・制限時間のカウントが始まる
・歯磨きというアクションをする事で、敵への攻撃が開始
・一定のダメージを与えると敵を討伐
・30体の敵を倒すとドラゴン登場
・敵を討伐するとコインを獲得
この仕組みを、ゲーミフィケーションの要素に置き換えるとこのように言えます。
・ユーザーは勇者の兜をかぶった姿が表示される
→アバターの要素で視覚的に表現をし、敵を倒そうというアチーブメント(定められた目標)を理解できる
・制限時間のカウントが始まる
→60秒間という制限の中での戦いというコンバット(短期間の定められた戦い)の要素
・歯磨きというアクションをする事で、敵への攻撃が開始
→何かに挑戦するというチャレンジの要素と、歯磨きをする事により攻撃されるというフィードバックの要素
・一定のダメージを与えると敵を討伐
→自分の行動で敵を倒すというフィードバックと、何体敵を討伐したかの数を表示するリーダーボードの要素
・30体の敵を倒すとドラゴン登場
→ボス戦として、あるレベルの頂点における難しいチャレンジを体験
・敵を討伐するとコインを獲得
→報酬としてのポイントの蓄積を体感できる
実に沢山のゲーミフィケーションの要素が存分に盛り込まれていることが良く分かります。
■そして子供たちは歯みがきに熱中し続ける
さらに見ていくと、子供たちが継続したくなる要素も盛り込まれています。
プレイヤー自らの行動で成長しているという育成進捗を可視化する為に、各ヒーローカードにLvの要素を設けていたり、30体目のボスを倒す事で、新しいアバター(兜)を手に入れる事が出来、『60体目のドラゴンを倒そう』と次の目標を明確に明示する事で、モチベーションを維持する仕組みも仕込まれています。
その他にも、
バトル時に攻撃をするヒーローを複数登場させることで、協力要素を体験できる為、みんなで敵を倒している感も意図的に演出しているものと思われます。
『はみがき勇者』を要素分解してみると、非常に王道のゲーミフィケーションのロジックが導入されているように見えますが、分かりやすさ、体感の良さ、レベルデザイン、がしっかり作りこまれていることで、非常に多くの子供たちが「歯磨きが楽しくなる」という体験を生み出す事に成功したのだと思います。
私の知り合いの子供は、「はみがき勇者」のおかげで、歯磨きを必要以上にし続けてしまうという今までにない悩みも生まれているようです。
これからは、子供に向かって「ちゃんと歯を磨きなさい!」ではなく、「いつまで歯を磨いてるの!」と注意するお母さんが増えていく事でしょう。